フォーラムエイトはMIT(マサチューセッツ工科大)の産学連携プログラムであるMIT ILPに参画しており、2021年よりMIT ILPの協力により「MITスペシャルセミナー」を開催。毎年3月に建設・土木系の研究者を招聘してオンラインで実施しています。今回は同大学建築学部 助教のMiho Mazereeuw氏が登壇し、「災害に備えた防災デザイン」をテーマにご講演いただきました。

ランドスケープ・アーキテクト、建築家であるMazereeuw氏は、ハーバード大学デザイン大学院、トロント大学で教鞭をとった経験を持ち、地震多発地域のインフラデザインや多機能な公共空間、革新的戦略などをまとめた「Preemptive Design: Disaster and Urban Development along the Pacific Ring of Fire」を執筆。災害復興、防災の分野で世界中の非営利団体と多数のプロジェクトに協力し、現在はハイチ、日本、チリで活動しています。

今回の講演では、災害の予期を行ってデザインにより備えて行くための手法をテーマに同氏が執筆した書籍「Design Before Disaster」(バージニア大学出版局/2023年出版予定)をベースとし、様々な情報を分かりやすく紐解いた資料を用いて説明。実際に訪れた東日本大震災の被災地をはじめとして、世界の様々な地域を対象とした防災のためのデザインについて、Awareness(気付き、自覚)の強化・向上とそのために重要となるビジュアライズ研究成果を紹介しました。

Mazereeuw氏は、防災研究においてはフィールドワークが重要であることを強調。多くの現場に赴いた経験から、現地の人々が実際どのような影響を受けているかを把握し、アクションとリサーチをつなぐこと、アカデミアとして現場の人々との情報共有が必要であると述べます。

リアルタイムのRISKMap AIプロジェクトでは、市民が被災時にスマホなどから家族に送信している情報を政府にも、同時に政府の情報を市民にも提供して、人と政策をつなげるためのツールを作ることを目指しました。また、筑波大学との京都府福知山市におけるプロジェクトでは、安全なコミュニティづくりのための情報共有をテーマに活動。現地の過去の洪水の写真を数百枚取得して画像認識を行ってリスク分析を実施し、テキストにおけるリスクの分類では、手作業を自然言語処理にすることで分類し情報収集を効率化しました。「洪水軽減のシミュレーションと責任遂行能力の向上」をテーマとしたプロジェクトでは、MITのケンブリッジ全体のキャンパスの洪水リスクマップを構築。どこに脆弱な部分があるかをビジュアル化し、アーバンデザインや政策に落とし込んでいく手法を紹介しました。

最後に、出版予定の防災デザインに関する書籍の内容と絡めて、日常の空間を災害発生後にどのように利用していくかの認知度を高め、一般の人が施設を使うときに減災のためのデザインだとわかってもらうことを意識していると述べ、災害に対する備えや認識を日頃のデザインを通して伝えることの重要性を説きました。


マサチューセッツ工科大学日本産業学際会 日本 所長 矢野 敬二氏による挨拶
MIT、ILPの組織について紹介

Miho Mazereeuw氏のプレゼンテーション。「災害に備えた防災デザイン」をテーマに、氏の著書から同氏が影響を受けた日本の事例や、MIT Urban Risk Rabの現在のプロジェクトをご紹介いただいた



(Up&Coming '23 春の号掲載)
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